目を奪われるカラフルな色彩、独特な発想による映像の展開、アメリカ合衆国のインディーロックバンド「OK Go」をご存じでしょうか?
「I Won’t Let You Down」(期待を裏切らない)。言葉の通り、期待を裏切らず逆に上回るミュージックビデオ(以下MV)を生み出しているOK Go。このMVではホンダのUNI-CUB βに乗ったり、日本人アーティストのPerfumeが出演したりするなど、我々日本人にとって親近感の湧く映像となっています。この他にも無重力空間で撮影した「UPSIDE DOWN & INSIDE OUT」や4.2秒をスロー再生で1曲にした「THE ONE MOMENT」など、どれも個性的で突拍子もない発想でファンを虜にしています。そして、その中でも一際目を引く「Obsession」。今回はこちらのMVをご紹介いたします。
<目次>
・Obsessionとは
・プリンター567台!? 大掛かりなセットと膨大な制作時間
・大掛かりなセット
・途方もない制作時間
・Double Aの“こだわり”
・ミュージックビデオで使用した大量の紙は…
Obsessionとは
株式会社SIXのクリエイティブディレクター斉藤迅氏、Rhizomatiks Researchのディレクター真鍋大度氏、Perfumeなどの演出振り付けを行うMIKIKO氏、OK Goのダミアン・クーラッシュ氏と共同監督を務めた、サカナクションのMVなども手掛ける田中裕介氏など、日本のクリエイターの方々も多く参加して制作された「Obsession」。Obsessionの意味は、「こだわり/執着/とりつかれる」などに訳されます。
このMVは、世界130カ国で発売され、Doubleクオリティーとして世界的に知られるタイの紙メーカー「 Double A」とOK Goのコラボレーションによって制作された、「プリンタ3Dプロジェクションマッピング」という世界初の試みに挑戦するというテーマの企画でした。
プリンター567台!? 大掛かりなセットと膨大な制作時間
大掛かりなセット
広告主の製紙会社 Double Aの商品である、紙を使用したMV撮影は567台ものプリンターが積み上げられており、そこから出力されるカラフルな用紙が圧倒される背景を作り出します。567台ものプリンターをRhizomatiks Researchのディレクター真鍋大度氏がプログラムで制御して操作しており、OK Goのメンバーとプリンターのタイミングが少しでもズレてしまうと、この撮影は上手くいかなかったでしょう。こちらのメイキングからは大変でこだわり尽くした制作過程を見ることも可能です。
途方もない制作時間
そしてこのビデオ、全編ではありませんが、36倍に遅くした曲に合わせて撮影しているのです。とてもゆっくりカメラが動き、OK Goのメンバーもゆっくり動いて撮影を進めていたそう。36倍の早回しということは、36倍の時間が掛かるということになります。プリンターをプログラム制御している真鍋大度氏が事前に「曲の何分何フレーム目で紙が切れる」ということも計算してくれていたため、撮影を止めて床に散らばっている紙を動かすことなくプリンターに給紙をして、という作業を繰り返して制作していきました。かなり時間が掛かり、筆者だったら気が遠くなるような作業です…。ちなみにMV自体の撮影は日本で行われ、OK Goのメンバーは2週間も滞在し、撮影は5日間にも及んだとのこと。
この企画の驚くべきポイントはそれだけではありません。撮影までに2年半の歳月を要しています。OK Goのメンバーは本番前に2度来日しています。本番と比べると小さなプリンターを積み上げた壁(しかし100台ほどあります…。)を使用して、実際にシミュレーションしたり、実寸の映像をスクリーンに投影してOK Goのパフォーマンスやワイヤーを使用したカメラワークのテストを重ねていったそうです。初挑戦となる、プリンタ3Dプロジェクションマッピングなので、アイデア出しから技術的な検証、身体的な検証、ビジュアル的な検証など、様々な検証を重ねて練り上げて完成させました。
Double Aの“こだわり”
株式会社SIXの斉藤迅氏は「紙詰まりしないDouble Aの品質の良さをエンターテイメントとして伝えよう」と決め、この企画を初期から担ってきたと言います。実際、長期の制作期間や撮影の間、一度も紙詰まりを起こしていないとか! 実際に映像を見ていただくと分かりますが、とても滑らかな出力で、次々と目まぐるしく変化する展開に目を奪われます。Double Aはこれまでも「Work hard and play hard(よく学びよく遊べ)」のメッセージを掲げ、世界中でクリエイティブなキャンペーンを実施してきました。また、OK Goも思いもよらない挑戦で視聴者を楽しませてくれる映像を制作してきており、両者が結託することで、この素晴らしいMVが完成したのでしょう。
ミュージックビデオで使用した大量の紙は…
このようにして視覚的な美しさを完成させたMV「Obsession」。このMVの広告主である、Double AのCM「OBSESSION for SMOOTHNESS」は第65回カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルの「デザイン部門」金賞、サブカテゴリー別で銀賞も受賞していました。
MVを視聴していただけばお分かりになると思いますが、膨大な量の紙を使用しています。何も明記していなければ、紙の無駄遣いへの批判が殺到したでしょうが、冒頭で「全ての紙はリサイクルされ、その売り上げはGreen peaceに寄付しました」という紙がプリントアウトされています。Green peaceとは環境NGO(非政府組織)であり、環境にも配慮していることが伝わります。
あまりにも色の情報が多いため、この映像のためにYouTubeが緊急でビットレートを調節することになったMV。昨今、YouTuberが夢のある企画をして楽しませてくれますが、この規模は流石になく、とても見応えがあります。そして、「Obsession」はYouTubeで何度でも視聴可能です。OK Goがオススメする画質の設定をマニュアルで1440pあるいは2160pにして視聴してみてはいかがでしょうか? 子供心をくすぐり、プリンターで遊びたくなってしまうかもしれません。
最後に筆者のオススメのOK Go面白MVをご紹介いたします。是非OK Goの独特な世界観を楽しんでみてください!
A Million Ways
Here It Goes Again
I Won’t Let You Down
Upside Down & Inside Out
End Love
The One Moment