校閲のプロに学ぶ、見落としがちな資料の誤植を防止する方法

あなたは本を読む際、電子派ですか?紙派ですか? 近年、電子書籍で読める本が数年前に比べ増えてきています。しかし現在も電車の中では文庫本を片手に読んでいる方はちらほらいらっしゃいます。iPad等のタブレットやKindleをはじめとする電子ブックリーダーで電子書籍を読まれている方をよく見かけます。年代でばらつきはあると思いますが、電子書籍を利用している方の割合が多い印象です。時代の変化や環境への意識の高まりに伴い、現在ではペーパーレス化が一般的になりつつあります。
テレワークの増加により、会社の書類もデータ化が中心で、紙を使用する機会が極端に減りました。データで資料をチェックしていると、自分以外が作成した資料の誤植は発見できるのに、自分が作成した資料の誤植は発見しづらい…なんてことありませんか? それはタイポグリセミア現象(※1)が起きていることも原因の一つかもしれませんが、紙を使用していた時より圧倒的に誤植が多くなっている気がする、そう感じる方もいらっしゃるでしょう。そこで今回は校閲のプロ、エディトリアル業界でペーパーレス化が進んだ現状の紹介と、誤字脱字をはじめとする誤植防止策を解説したいと思います。

※1…文章に含まれる単語を構成する文字を並べ替えても、多くの人間はその文章を問題なく読めてしまう現象のこと。(例)みまなさ、だじいなおらしせ。→みなさま、だいじなおしらせ。

エディトリアルとは

エディトリアル(Editorial)という言葉は聞き馴染みがある人と、そうではない人の両極端に分かれるでしょう。一般的にエディトリアルとは、新聞や雑誌などの「編集」「出版」を指す言葉です。エディトリアル業界でも、様々な業種はあると思いますが、DTP(DeskTop Publishing)化が進んでいるとはいえ全体的に紙での作業が多いイメージは拭えません。エディトリアル業界といえば、2016年に放送された「地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子」という、石原さとみさん主演のドラマが記憶に新しいのではないでしょうか? 当時このドラマが元となり、校閲という仕事を初めて知った方も多いと思います。このドラマの中でも小説や雑誌の校閲は紙で行っている様子が印象的でした。ドラマから5年、現在も校閲の仕事現場では、紙に出力し作業をしているのでしょうか?

現在のエディトリアル業界

校閲とは「印刷の誤植を見つけ出す仕事」という認識が大半だと思います。しかし、実際の校閲はこの一般的なイメージの誤植探しだけではありません。この誤植探しだけでいえば、「校正」に当てはまります。実際に現在のエディトリアル業界は校正としてのチェックはPCを使用し、データ上で行うオンライン校正だそうです。現在のPCの日本語変換機能はとても優秀なため、誤植は減っています。しかし、変換ミスや思い込みによる間違いはまだあるとのこと。そんな時はPC上の画面の文字を眺めているのではなく、紙に印刷して直接鉛筆を走らせるのです。

データ上の文字と印刷した文字

オンライン校正のメリットはペーパーレスにもなりますし、日本語変換機能を使用すれば、データを打ち出したりしなくても良い分スピードが重宝されます。また、一つの原稿に複数の人が同時に校正する際も、オンラインで共有し、画面上で赤入れができ、時間の短縮になります。しかし、ここで疑問が浮かびます。データの文字と紙に印刷した文字、精度が高いのはどちらなのか。会社勤めなどで、資料を作成したことのある方は共感していただけると思いますが冒頭でも記述したように、PC上で自分が作成した資料を見返してみると、思っていたより誤字が多くありませんか? そして、紙に印刷した資料を見ると、間違いに気づきやすいと感じる…。この疑問に対して、実際にデータと紙での校正を研究した方がいらっしゃいます。富士ゼロックス(現:富士フイルムビジネスイノベーション)でペーパーレスオフィス研究に従事してきた研究技術開発本部コミュニケーション・デザイン・オフィスの柴田博仁さんによる研究(※2)に、紙とタブレット端末を使って文章の校正作業を比較した実験があります。結果としては、タブレットに比べ、紙の方が17.2%も高い確率で誤りを検出できるとのこと。また、紙と電子メディア(※3)の論文中の校正スピードについては、紙での校正はタブレットのディスプレイでの校正よりも11.9%速いという結果も得られています。これが紙での校正作業の不思議なポイントであり、紙での校正が望ましいことは確かなようです。実際に筆者も紙で校正しておりますが、本を読んでいる感覚に近く、目線がPCを眺めている時よりも追いやすいと感じました。校正だけでなく、校閲の表現の揺れなどが発見でき、紙でのチェックはPCで見つけられなかった誤植も探し出すことができました。

※2…2019年発売5月15日発売 THE BIG ISSUE JAPAN359号より  ※3…紙と電子メディア〜読み書きのパフォーマンス比較〜

文字だけではない、色校正

エディトリアル業界は文字の校正だけではありません。色の校正も、もちろん存在します。電子書籍もありますが、アニメやゲームのようにデータのみで発売するわけではありません。雑誌やポスターなどは色校正が重要になってきます。なぜ色校正が必要なのか、それは出力機やインクが関係しているのです。
例えば、印刷会社に仕上がりの色をCMYKの数値で間違いなく伝えました。しかし、なぜか自分が思っていた色と違う色で商品が納品されます。印刷会社が悪いのか?そうではありません。実は同じCMYKの数値でも出力する印刷機によって色味が異なるのです。色校正には大きく分けて3種類に分けられます。

<簡易校正>
本番の印刷で使用する機械や紙ではなく、家庭用プリンターや一般的な複合機レベルの印刷機で色見本を出力して確認します。これはあくまでも簡易的な校正のため、実際の仕上がりとは多少違います。イメージを掴むための色校正ですね。他の色校正よりは低コスト、短期間で行えます。
<本紙校正>
色校正専用の印刷機による校正刷りの為、実際の印刷で使用する紙とインキを使用したプルーフが届きます。量産時の仕上がりの色味に近い校正方法ながら、本機校正よりはコストを抑えられます。初校は本紙校正で確認し、再校は簡易校正で済ますといった使い分けをされているようです。
<本機校正>
仕上がりの色に最も近い校正方法です。最もコストと時間がかかるため、ポスターやパンフレット等の販促物をはじめ、それ自体が商品となるようなパッケージデザイン等の重要なプロジェクトの際に使用されます。

最近では家庭用プリンターや複合機も技術が進歩し、簡易校正でも仕上がりに近い色味で印刷が可能になっております。プロの現場ではDDCP(Direct Digital Color Proofing)と呼ばれるワンランク上の簡易校正方式もありますが、いずれもディスプレイモニターが発色する光のRGBと、紙から反射した光が眼に届く印刷物のCMYKとでは、実際にデータと実物を見比べるとやはり違ってくるため、いくら電子書籍での購読者が増えても、出版がある限り紙へ印刷しての色校正は欠かせません。

エディトリアル業界も少しづつ、データ化によるデジタル校正へと移行しつつあるようです。しかし人間の目に映る誤魔化せない絶妙な色の違いがあるため、校閲の現場では慣れ親しんだ紙での校正は続いています。あなたも大事な会議の資料や報告書など、普段データで処理していることが大半かと思います。一度印刷した上で校正してみると、見逃していた間違いに早く気づけたり、紙に書かれた文書を読むことで記憶にしっかり定着するかもしれません。エディトリアル業界のプロでさえ、最終的に紙での校正をしているため、絶対に失敗できない重要な文書やプレゼン資料などをチェックする際は、紙に印刷して確認されることをお勧めします。

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