2022年7月、中国は「情報セキュリティー技術オフィス設備安全規範」という名称で国家規格の草案が出されました。この国家規格が日本の技術を脅かしています。
今回は、日本の複合機の最先端技術を狙う中国の目的を解説いたします。
<目次>
・中国が検討している新たな規制とは
・なぜ中国は複合機の技術を狙うのか
・国家規格を導入しない方針を翻したのにも関わらず…
・複合機の技術を巡る、今後の日本と中国
中国が検討している新たな規制とは
中国が検討している国家規格(※)、情報セキュリティー技術オフィス設備安全規範は、中国国内で製造する海外のオフィス機器メーカーに対し、「設計・製造を含めた“全工程”を中国国内で行うよう求める」と明記したものです。
その対象は主に、印刷・スキャン・ファクス・コピーなどの1つ以上の機能をもつ機器である「複合機」になります。
複合機の生産に関して、日本は世界トップレベルの技術力とシェアを誇っています。読売新聞(2022年7月付け)の業界団体関係者によると、複合機のシェアは、日本と米国が9割超を占めており、中国は1割にも満たないことが判明しています。ちなみにこの9割のシェアの中でも7〜8割が日本企業が占めています。
中国は国家規格化することにより、「国内で複合機の全工程の製造を可能にしたい」、「長期的な視点・国際的な標準として日本の技術が欲しい」と思っているのです。
※:国家規格とは、国や公的機関が制定しその国内で適用される規格のこと。例えば、日本のJIS(日本産業規格)やJAS(日本農林規格)が挙げられます。
なぜ中国は複合機の技術を狙うのか
複合機はとても身近な事務機器ですが、非常に高度な技術が詰まったハイテク機器です。
機能:コピー・スキャン(光学技術)、印刷(化学技術)、FAX(通信技術)、自動原稿送り装置(機械・電気・情報工学など)、インターネット(IT)
重要部品:メイン制御チップ、レーザースキャン部品、コンデンサー、電気抵抗器、モーター
最近はインターネット回線に繋がった複合機が主流となっており、日本のメーカーはこれらの基幹部品を国内生産してきました。中国はこれら重要部品の生産だけではなく、設計・開発まで中国国内で行い、いかに国内で生産していくかということが、大きな目的の1つになります。
中国は複合機業界のシェアを高めたい、競争力を高めたいと思うだけではありません。もう1つの目的は、軍事利用です。
前述したように、複合機はプリンターやファックス、スキャンなどの機微技術が集中しています。機微技術とは、軍事に用いられる可能性の高い技術のことです。この機微技術には、武器製造に直接関わる技術だけではなく、軍事転用されやすい民生用の技術もあるのです。
例えば、2016年11月のウクライナのドネツク地域で墜落したロシア軍の偵察用ドローンに、日本の中小企業の製品が使われていたことが判明しました。そのため、複合機の部品や技術も軍事転用される可能性は高く、すでに複合機の部品が何らかの武器に使われているかもしれません。
また、近年の複合機はネット接続が可能です。そのため、どこで誰が、どういう書類をコピーしたのかなど、全てのセキュリティがしっかりしていないとドキュメント情報までも読み取られてしまいます。
中国は海外の最先端技術を買って学ぶことによって、海外の技術への依存を定着させると共に、中国国内で軍事転用する戦略を展開しているのです。
このように目的としては、マーケット的なシェアと軍事的な視点が考えられます。
国家規格を導入しない方針を翻したのにも関わらず…
この新しい国家規格に対して日本側は公平な競争条件を確保するように中国側へ要請しました。
2022年10月にWTOの市場アクセス委員会で中国政府担当者は「近い将来、プリンターやコピー機に関する国家規格を見直す計画はない」と説明し、「国家規格を扱う当局もいかなる規格見直しの指示も受けていない」と明言したのです。
さらに、11月に開催されたWTO物品貿易理事会の場でも、上記と同じ説明を繰り返しました。
しかし、情報セキュリティー技術に関する国家規格を所管する「全国情報安全標準化技術委員会」は2022年10月、オフィス機器の全面国産化の国家規格を規定する「情報セキュリティー技術オフィス設備安全規範」を公示し規格導入を進めていく方針を打ち出したことが判明したのです。
この中国の短期間での政府見解を撤回したことについて、外交筋は「国内の論理を優先する強引なやり方で、国際常識に反する。政府の見解の信用性も落とす。」と批判しています。
そして、2023年1月16日の記者会見で、松野博一官房長官は「中国の重要情報インフラ部門による事務機器の調達に当たって、適用される国家標準の改定が正式にプロジェクト化されたと聞いている。」と述べています。いよいよ動き出ししてしまったプロジェクト、日本の対応などはどのようになっていくのでしょうか。
複合機の技術を巡る、今後の日本と中国
ここまでの内容をまとめると、中国の狙いというのは、
① データを抜かれないように国産化
② 複合機の先端技術を奪う
であり、特に日本は②を懸念しています。
これまでの日本の歴史を振り返ると、現在の複合機業界と同じ風景が、高速鉄道を含めた他の業界にも多々ありました。日本は「目立つ技術ではないから、奪われないだろう」と安心しきっており、海外に進出する度に、中国に奪われてきた技術があるのです。
この国家規格に対して経済産業省は、『一般論として述べれば、製品や部品の開発、設計、製造などの工程を国内で行うことを求める基準などの導入は、国際ルールとの整合性が求められるものと認識しております。政府としては国内企業に不当な不利益が生じないよう、今後の動向を注視し産業界と連携しつつ必要な対応をしっかりしていきたい』と述べています。
このような中国の動向に対して、アメリカではオバマ政権の頃から既に対策をしていました。2022年12月には、アメリカ商務省の産業安全保証局は国家安全保障上の懸念を理由に、半導体の生産や研究を手がける中国企業36社を「エンティティーリスト(国家安全保証や外交政策上の利益に反すると判断された企業のリスト)」に追加すると発表。
経済で中国に大きく依存している日本は、アメリカのように中国に厳しく対抗できておりません。しかし、このまま中国に対して何も対策をしないとなると、これまでの日本の歴史のように技術が奪われかねません。
日本が取るべき対策として、中国に技術を渡すのか?中国から撤退するのか? はたまた・・・
この国家規格が導入された際には、どこまでの技術の開示なら大丈夫なのかという見極めや、経済産業省がどこまで対策を練るのかということが日本の未来にとって重要になるでしょう。
日本は複合機の先端技術まで中国に奪われ、これまでと同じような歴史を繰り返すのでしょうか、今後の動きに注目です。
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